1950年に設立されたチェス・レコードはブルースやR&Bを専門とするレーベルで、ロックンロールの成立に大きく寄与したことで知られている。特にマディ・ウォーターズをはじめ、ハウリン・ウルフ、リトル・ウォルター、バディ・ガイなど、シカゴブルースのスーパースターを抱えており、チェスは英米のロックアーティストに大きな影響を与えていた。しかし、ビートルズやローリング・ストーンズが登場してきた60年代になると世界的にロックが全盛の時代を迎える。60年代の中期を過ぎる頃には、若者たちの多くはロックに熱狂しブルースやR&Bのリスナーは減少していく。今回紹介するマディ・ウォーターズの『エレクトリック・マッド』は、その頃にリリースされた異端の作品である。チェスは起死回生の戦略として、マディ・ウォーターズに白人の若者に受けるサイケデリックロックをやらせようと考えたのである。