90年代になって新たに登場したアメリカーナというジャンルは、60年代から活躍するルーツ系ミュージシャンの立ち位置を明確にする役割を果たしたと言えるかもしれない。ザ・バンドやライ・クーダーなどは、ぎりぎりアメリカンロックと呼んで呼べないことはないかもしれないが(やっぱり無理か…)、黒人アーティストのタジ・マハールはまさにアメリカーナ系アーティストの最右翼だろう。彼はデビュー前からブルースをはじめ、ロック、フォーク、ソウル、ブルーグラス、ジャグバンド、オールドタイム、ワールドミュージックなどのさまざまな音楽に精通していたのだが、レコード会社はブルース1本に絞って無理矢理ブルースロッカーという括りでデビューさせている。ジャンルをまたがるような音楽は売れないと考えられていた時代ならではの、まさに苦肉の策であった。今回紹介する『ザ・リアル・シング』は通算5枚目となるタジの初のライヴアルバムだ。本作はロック色が濃く、タジがブルースロッカーという呪縛から解放されただけでなく、チューバ4本をバックに従えるなどかなり異色の作品ではあるが、ライヴの熱気が伝わる傑作に仕上がっている。