ミック・ジャガーやスティーブン・タイラーのようなカリスマ・ヴォーカリスト的存在のピーター・ウルフは、J・ガイルズ・バンドのフロントマンとして「堕ちた天使」の大ヒットもあって、一気にスターダムに駆け上がった。しかし、グループが売れれば売れるほど、自分のやりたい音楽とのギャップを感じるようになり彼はグループを脱退、ソロ活動に専念するようになる。84年にリリースした初のソロアルバム『ライツ・アウト』はミック・ジャガーの参加もあって注目されたが、当時のサウンドプロダクションは打ち込みやチープなシンセが多用されており、今聴くと古臭さが否めない。初期のJ・ガイルズ・バンドのファンはここで追いかけるのをやめた人も少なくないと思う。しかし、21世紀に入って彼はアメリカーナ的なアーティストとして完全に開花した。僕はJ・ガイルズ時代よりも素晴らしいとさえ思う。6thソロアルバム『スリープレス』(’02)はミック&キース、ディランのバックでお馴染みのラリー・キャンベル、J・ガイルズ・バンドの盟友マジック・ディック、アメリカーナ界の重鎮スティーブ・アールらをゲストに迎えて制作され、カントリーやブルースが完全に昇華されたルーツロックの名作と言える作品であった。アメリカーナ専門のインディーズからリリースされたにもかかわらず、ローリングストーン誌のオールタイム500アルバムに選出(427位)されるなど話題となった。今回取り上げる7thソロアルバム『ミッドナイト・スーベニア』(’10)は、その『スリープレス』を上回る傑作で、派手さはないが、楽曲も演奏も文句なしの仕上がりだ。ボストン・ミュージック・アワードでは2010年度の最優秀作に選ばれている。