トム・ウェイツは異色のシンガーソングライターとして1973年に名作『クロージング・タイム』でアサイラムレコードからひっそりとデビューした。レーベルメイトのイーグルスが彼の初期の名曲「オール‘55」を3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー』('74)でカバーしたことで、その存在は広く知られることになる。1980年までにアサイラムから7枚のアルバムをリリースするも商業的な人気は得られなかったが、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして音楽業界では大きな支持を集める。今回取り上げる『レイン・ドッグ』はアイランドレコードに移籍しての2作目にあたり、彼がニューヨークに移住してからリリースした初のアルバムだ。ジョン・ルーリーやマーク・リボーといったニューヨークのオルタナティブジャズ(当時はフェイクジャズとかパンクジャズと呼ばれていた)のアーティストたちが参加、創造性に満ちたオルタナティブな傑作である。