1981年のグラミー賞授賞式で起こったことは未だに覚えている。それぐらい衝撃的であった。経歴や顔すら分からない新人が、最優秀アルバム賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞の主要4部門を含む5部門を受賞したのである。その新人というのが今回紹介するクリストファー・クロス。彼のデビューアルバム『南から来た男(原題:Christopher Cross)』は79年にリリースされ、ジャケットはフラミンゴのイラストが描かれているだけのシンプルなもので、バイオグラフィーもレコード会社の思惑でほとんど紹介されなかった。その前年、日本では映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が公開され大ヒット、世界中でディスコ音楽が大流行しており、ディスコと縁のないポピュラー音楽ファンは不遇の時代を味わっていたのだが、そこに彗星の如く登場したのが『南から来た男』で、本作はAOR系サウンドの傑作だと言える。